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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)4377号 判決 1997年5月29日

原告

壁村真吾

ほか二名

被告

西森清治

ほか一名

主文

一  被告らは、原告壁村真吾に対し、各自二九六一万二六〇一円及びこれに対する平成六年七月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告壁村睦男に対し、各自三〇万九〇〇〇円及びこれに対する平成六年七月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告壁村真吾及び原告壁村睦男のその余の請求並びに原告壁村洋子の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを四分し、その三を原告らの、その余を被告らの負担とする。

五  この判決の第一、第二項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告壁村真吾に対し、各自一億二二三一万三〇六三円及びこれに対する平成六年七月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告壁村睦男に対し、各自二三〇九万八八〇〇円及びこれに対する平成六年七月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、原告壁村洋子に対し、各自三〇〇万円及びこれに対する平成六年七月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告壁村真吾(以下「原告真吾」という。)が、自動二輪車を運転中、被告西森清治(以下「被告西森」という。)の運転する普通貨物自動車に衝突され負傷したとして、被告西森に対しては民法七〇九条に基づき、右車両の所有者である被告三島硝子建材株式会社(以下「被告会社」という。)に対しては民法七一五条及び自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づきそれぞれ損害の賠償を求めるとともに、原告真吾の父である原告壁村睦男(以下「原告睦男」という。)及び原告真吾の母である原告壁村洋子(以下「原告洋子」という。)が、右事故によりそれぞれ固有の損害を被つたとして、同様に、被告らに対し、損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実等

以下のうち、4の事実は甲第一号証により認めることができ、その余の事実は当事者間に争いがない。

1  被告西森は、平成六年七月七日午後六時三五分ころ、普通貨物自動車(大阪一一ひ六二一四、以下「被告車両」という。)を運転して大阪府東大阪市寿町三丁目一番二四号の信号機により交通整理の行われていない交差点(以下「本件交差点」という。)を右折進行するにあたり、後方から進行してきた原告真吾の運転する自動二輪車(一大阪ぬ二〇二四、以下「原告車両」という。)の左側面に被告車両の右前部を衝突させた(以下「本件事故」という。)。

2  原告真吾は、昭和五一年八月二四日生まれで本件事故当時一七歳であり、本件事故により脊髄損傷の傷害を負い、二三八日間の入院治療の後、平成七年三月一日、両下肢麻痺、両下肢知覚鈍麻、歩行不能、直腸膀胱障害の後遺障害を残して症状が固定し、右後遺障害は自動車保険料率算定会調査事務所により自賠法施行令二条別表障害別等級表所定の一級に該当するとの認定を受けた。

3  被告会社は、本件事故当時、被告車両を所有して自己のために運行の用に供していた。

4  原告睦男は原告真吾の父、原告洋子は原告真吾の母である。

5  原告真吾は、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から三〇〇〇万円の保険金の支払を受けたほか、被告らから一六六万〇四六〇円の支払を受けた。

二  争点

1  本件事故態様及び過失相殺

(原告らの主張)

原告真吾は、本件事故当時、本件交差点の先にある信号機により交通整理の行われた交差点(寿町一丁目交差点)を右折しようと西から東へ向けて進行中、寿町一丁目交差点の対面信号機が赤色となつたので、本件交差点を右折しようと考え、方向指示器を出してセンターラインぎりぎりまで原告車両を寄せて右折を開始しようとしたが、その矢先に、左横を同一方向に進行していた被告車両が急に右折の方向指示器を出すと同時に右折を開始したため、本件事故が発生した。

(被告らの主張)

本件事故は、被告西森が、本件交差点を右折しようとしてその約二〇メートル手前で右折の合図をして減速し、停止するかしないか程の速度で対向車両の途切れるのを待つたうえで右折を開始したところ、原告真吾が、その右側を無理に追い越そうとして発生したものであり、本件事故の発生には、原告真吾にも少なくとも七割の過失がある。

2  原告らの損害

第三当裁判所の判断

一  争点1(本件事故態様及び過失相殺)について

1  前記第二の一1の事実に、甲第四号証、第八、第九号証、第二七号証、検甲第一ないし第一三号証、乙第七号証及び被告西森本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 本件交差点は、東西に通ずる片側各二車線の道路(以下「本件道路」という。)に、南北に通ずる幅員六・〇メートルの道路が南から突き当たる丁字型の交差点で、信号機による交通整理は行われていない。本件道路は、制限速度が時速四〇キロメートルと指定され、中央部に幅〇・四メートルの白色ペイントによる中央分離帯が設けられており、東行車線は、各車線とも幅三メートルとなつている(本件事故現場の状況は、別紙図面のとおり。)。

(二) 本件事故当時、被告西森は、被告車両を運転して、本件道路の東行の中央分離帯寄りの車線(以下「第二車線」といい、他の一方の車線を「第一車線」という。)を、被告車両の右側面がやや第一車線に跨る状態で進行しており、原告真吾も、原告車両を運転して、第二車線の被告車両後方を走行していた。その後、被告西森が本件交差点手前で減速したため、時速四七キロメートルを相当程度上回る速度で進行していた原告車両がこれに追い付きその側方を通過しようとした際、被告西森が右折を開始したため、別紙図面<×>地点で、被告車両の右前部が原告車両の左側面に衝突した。

(三) 本件事故による衝突で、原告真吾は、原告車両もろとも跳ね飛ばされ、別紙図面<イ>付近に駐車していた乗用車の運転席のドアに背中を強打する形で激突し、同図面<イ>の位置に転倒した。また、原告車両は、同図面<ウ>付近に駐車していた別の車両に衝突して同図面<ウ>の位置に転倒して停止した。

(四) 原告車両は車幅〇・六五五メートルで、本件事故により、前部風防破損、左右ステツプ破損(脱落)、右ミラー破損、制動灯並びに後部方向指示器破損、車体右側擦過、左側マフラー擦過痕の損傷が生じた。また、被告車両は、車幅二・〇一メートルで、本件事故により、右前方向指示器並びに右前車幅灯レンズ破損、前部バンパー右角曲損、右側運転席ドア払拭痕(車体右前角から後方一・二〇メートル、地上一・一四メートルから一・四六メートルの範囲)、右バツクミラー破損(根元より脱落)、右側運転席ドア擦過痕(車体右前角から後方に一・一〇メートル、地上〇・八九メートル並びに車体右前角から後方に〇・八メートル、地上〇・八五メートルの並行の擦過痕)の損傷が生じた。なお、本件事故現場付近には、別紙図面のとおりの位置に、原告車両が転倒し滑走したことにより生じたと認められる擦過痕が残されていた。

2  以上によれば、本件事故は、被告西森が本件交差点を右折するに当たり、あらかじめ道路右側に寄ることなく、かつ、後方から進行してくる車両の有無の確認を怠り漫然と右折を開始した過失によつて発生したものというべきであるが、一方、原告真吾にも、進路前方の被告車両の動静に注意することなく、高速度でその側方を通過しようとした過失があるというべきであり、右過失の割合は五割とするのが相当である。

これに対し、甲第八号証には、原告真吾は、当初寿町一丁目交差点を右折しようと思つていたが、寿町一丁目交差点の信号機の右折可の矢印信号が消えたので本件交差点を右折しようと思つたとの記載があり、原告真吾もこれにそう供述をする。

この点、甲第二七号証には、本件事故当時、原告車両及び被告車両ともに右折予定であり、被告車両がその右側並進中の高速の原告車両側へ寄つて行つたものと認めて妥当であり、直進中の被告車両の方へ原告車両が寄つていつたものとは考えられないとの記載がある。しかし、右甲第二七号証は、(一)被告車両の運転席ドアの払拭痕及び擦過痕は、低速進行中の被告車両の右側を並進中の高速の原告車両が、略平行状態に追い抜いた際に印象したものと考えて妥当である、(二)払拭痕が、車体右前角ないし後方一・二メートル付近から始まり、擦過痕が、車体右前角ないし後方一・一メートル付近から始まつていることは、進行に伴つて両者が徐々に接近しながら接触したことを示すものと認めて妥当である、(三)被告車両右前方向指示器、右前車幅灯レンズの破損と前バンパー右角部の前方への曲損は、前記状態の後、更に両者が接近しながら高速の原告車両の車体金属部(ステツプを含む。)が衝突ないし引つかけたことによるものと認めて妥当であるとし、これらの状態から、前記の結論を導くものであるところ、本件事故当時、被告車両が右折予定であつたことは当事者間に争いがないうえ、右(一)ないし(三)によつては、原告車両までもが右折予定であつたことを認めるには十分ではないというべきである。そして、甲第二七号証には、原告車両の被告車両との衝突時における速度は時速約四七キロメートルとであるとの記載があるが、右は、衝突地点である別紙図面<×>から原告車両の転倒していた同図面ウまでの距離が三二・三メートル、同図面<×>から原告真吾の転倒していた同図面イまでの距離が一八・六メートルであることを前提として算出したものであることが認められるところ、前記のとおり原告車両も原告真吾も駐車車両に衝突して転倒していることから、もし右のような衝突がなければより遠くまで跳ね飛ばされていたものと考えられるから、原告車両の被告車両との衝突時における速度は時速約四七キロメートルを相当程度上回る速度であつたというべきであり、原告真吾が、右のような高速度で、本件交差点を右折して、本件道路と交差する幅員六・〇メートルの道路に進行しようとしていたとするのは不自然であり、この点からも、原告車両が本件交差点を右折予定であつたことを認めることはできないというべきである。

二  争点2(原告らの損害)について

1  原告真吾の損害

(一) 治療費 一六六万〇四六〇円(請求どおり)

原告真吾は、本件事故により平成六年七月七日から平成七年三月一日までの間に治療を受け、そのための費用として一六六万〇四六〇円を負担したことは当事者間に争いがない。

(二) 入院雑費 二八万五六〇〇円(請求三〇万九四〇〇円)

原告真吾が平成六年七月七日から平成七年三月一日までの二三八日間入院治療を受けたことは当事者間に争いがなく、かつ、弁論の全趣旨によれば、原告真吾は右期間中毎日相当額の雑費を支出したことが認められるところ、右雑費のうち本件事故と相当因果関係があるのは一日当たり一二〇〇円と認められるから、その合計は二八万五六〇〇円となる。

(三) 入院付添費 一一九万円(請求どおり)

弁論の全趣旨によれば、原告真吾の入院中の二三八日間原告洋子がこれに付き添つたことが認められるところ、右を金銭に換算すれば一日当たり五〇〇〇円とするのが相当であるから、その合計は一一九万円となる。

(四) 将来の介護費用 三八八二万八七〇〇円(請求六二二三万二三〇〇円)

本件事故により、原告に両下肢麻痺、両下肢知覚鈍麻、歩行不能、直腸膀胱障害の後遺障害が残つたことは当事者間に争いがなく、甲第三号証、第二八号証、乙第六号証、被告西森本人尋問の結果によれば、原告真吾は症状固定時一八歳であつたこと、現在、排便時等には原告睦男、原告洋子の介助を受けていること、上肢運動機能及び知覚並びに躯幹は正常であり、本件事故後普通乗用自動車の運転免許を取得し、自分一人で自動車を運転して外出することもできるようになつたことが認められる。

右のような原告真吾の後遺障害の程度、日常生活能力の実態に照らすと、原告真吾の将来の介護に要する負担を金銭に換算すれば、一日当たり四〇〇〇円とするのが相当であり、原告ら主張のとおり、原告真吾は少なくともあと五七年間は生存し、その間右のような介護が必要であると認められるから、原告真吾の将来の介護費用は三八八二万八七〇〇円となる(円未満切捨て、以下同じ。)。

計算式 4,000×365×26.595=38,828,700

(五) 逸失利益 五二六二万一三六三円(請求どおり)

甲第二八号証及び弁論の全趣旨によれば、原告真吾は、将来は原告睦男の経営する株式会社日和製作所に勤務する予定であつたところ、本件事故に遭わなければ、少なくとも一か月当たり一七万九六〇〇円の収入を得ることができたと認められる。そして、原告真吾の後遺障害の程度に照らせば、原告真吾は、本件事故により症状の固定した一八歳から就労可能と認められる六七歳までの間、労働能力の一〇〇パーセントを喪失したものと認められるから、右収入を基礎とし、右期間に相当する年五分の割合による中間利息を新ホフマン方式によつて控除すると、原告真吾の逸失利益は五二六二万一三六三円となる。

計算式 179,600×12×24.416=52,621,363

(六) 慰藉料 二七九六万円(請求どおり(入通院分 二九六万円、後遺障害分二五〇〇万円))

本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、原告真吾が本件事故によつて受けた精神的苦痛を慰藉するためには二七九六万円の慰藉料をもつてするのが相当である。

2  原告睦男の損害

(一) 家屋改造費用 六一万八〇〇〇円(請求二〇〇九万八八〇〇円)

原告睦男は、原告真吾の将来の療養、生活のために、従来居住していた家屋を改造しようとしたところ、改築には二〇〇九万八八〇〇円を要するうえ、建物敷地面積等の関係から原告真吾が生活するのに十分な改造は不可能であつたため、従前の土地建物を売却し、付近に土地を購入したうえ原告真吾が車椅子での最低限度の生活ができる構造の建物を新築し、そのために、従前の土地建物の売却により得た金銭との差額二九八七万一二〇〇円の支出を余儀なくされたから、少なくとも、旧建物改造の見積額である二〇〇九万八八〇〇円は本件事故と相当因果関係のある損害であると主張する。

しかし、親が交通事故によつて後遺障害を残した子のために、従前の土地建物を売却し、付近に土地を購入したうえ特別の設備を伴う建物を新築することが、社会通念上一般的であるとはいい難いうえ、旧建物改造の見積額が二〇〇九万八八〇〇円であつたとしても、実際には改造を行わなかつた以上、これをもつて現実に発生した損害と認めることはできないし、また、建物の改造に要する費用と、特別な設備を伴う建物を新築する場合における右設備を追加したことによる増加費用とが必ずしも同額であるともいえず、また右費用の増加分についてその範囲及び相当性を明らかにする証拠は見当たらない。

ただ、甲第二一号証、第二八号証、検甲第二〇号証、第二三ないし第二六号証によれば、原告睦男は、原告真吾の階段の昇降のために階段リフト一式を設置し、そのために六一万八〇〇〇円の費用を要したことが認められ、右に限つては本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

(二) 慰藉料 〇円(請求三〇〇万円)

原告睦男は、本件事故により原告真吾の父として強い衝撃を受け、原告真吾の入院、後遺障害等により、到底筆舌に尽くし難い精神的苦痛を受けたと主張する。しかし、本件事故によつて原告睦男が精神的な打撃を受けたであろうことは容易に窺われるものの、原告真吾が損害の賠償を受けることによつて、原告睦男の精神的苦痛も慰藉されたものとみなされ、本件では、原告睦男に固有の慰藉料請求権を認めるべき事情は見当たらない。

3  原告洋子の損害(慰藉料) 〇円(請求三〇〇万円)

原告洋子は、原告真吾の母として、原告睦男と同様の精神的苦痛を受けたと主張するが、原告睦男について述べたのと同じ理由から、右主張は採用できない。

三  結論

1  原告真吾が本件事故によつて受けた損害は一億二二五四万六一二三円となるところ、過失相殺として五割を控除すると六一二七万三〇六一円となり、更に原告真吾が自賠責保険から支払を受けた三〇〇〇万円及び被告らから支払を受けた一六六万〇四六〇円を控除すると、残額は二九六一万二六〇一円となる。

本件の性格及び認容額に照らせば、弁護士費用は二九六万円とするのが相当であるから、結局、原告真吾は、被告ら各自に対し、三二五七万二六〇一円及びこれに対する本件事故の日である平成六年七月七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

2  原告睦男が本件事故によつて受けた損害は六一万八〇〇〇円となるところ、原告真吾には本件事故の発生につき五割の過失があるので、右より過失相殺として五割を控除すると、残額は三〇万九〇〇〇円となり、原告睦男は、被告ら各自に対し、三〇万九〇〇〇円及びこれに対する本件事故の日である平成六年七月七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

3  原告洋子の請求は理由がない。

4  よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 濱口浩)

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